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よろず小説とたまーに日々のつぶやき
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 今回は多分レイ、でもひいきなのは火渡



+ + + + + + + + + +
LITTLE BEAT RIFLE

 「うにゃん」
 廃墟の陰から空を見上げ、長い尻尾をゆらゆらさせる。
 「うにゃうにゃ…」
 ピョイ、と身を翻して廃墟の中に飛び込んでとっとっと走れば、相棒が朝食を
作っていた。
 「お帰り、ドライガー」
 「にゃーん」
 「そっかー、今日も一日晴れか」
 ドライガーの報告に納得して、レイは大きめのボウルに鍋の中華粥を移す。
 「まだ雨期には早いから、ドライガーの予報が外れる理由がないなぁ」
 「にゃあ」
 「カイの奴、そろそろ来るはずだけど…ここに隠れてから何日目だ?」
 異能力者が都市内で目を付けられるようになったので、レイはドライガーを
連れて街を出た。本当は近くの大きい街に潜り込んで生活するつもりだったの
だが、居心地がよくなかったのでさっさとおさらばしてしまったのである。
 「うにゃん?にゃーご」
 「お前よく覚えてるな、一ヶ月と三日か」
 手帳を確認してみればドライガーの言うとおりで、相棒の体内時計の正確さに
納得した。
 「じゃあ、冷めないうちに食おう。いただきます」
 「にゃあ」
 自分用の器にも中華粥をよそい、手を合わせる。ドライガーも頭を下げて一声
鳴く。
 しばらくは共にもくもくと食事をして、食べ終わると水を少量使って鍋と食器を
洗った。
 「曇りでもなくちゃ、移動するにも不便なんだよな」
 「うにゃあ」
 都市の外には荒地と風化したコンクリートの砂による砂漠、そして崩れかけた
廃墟がほとんどで移動手段は主に徒歩、もしくはドライガーの背中に乗って
走る程度しかない。それに、移動したとしても一時の住処になるような廃墟を
見つけられるとは限らないので、無理をする意味がないのだ。
 荒地や砂漠の気温は高いが、影になる廃墟の中は薄ら寒い。昼と夜の寒暖
差はかなり大きく、気をつけないと体力を消耗するばかりになってしまう。
 「でも、気を使いすぎて運動不足になったら元も子もないし」
 「うにゃあ」
 運動するか?とでも言いたげにドライガーがネコパンチをしてきたので、
レイは笑った。

 街の外で生きるのには、日中よりも夜のほうが重要になる。
 ぱちり、と金色の瞳を開いてレイは起き上がった。
 「見つかったか。意外と早かったな」
 「フーッ!」
 ドライガーが全身の毛を逆立てて威嚇の体制に入る隣で、冷静に精神を集中
する。
 「五…いや六か。外にはもう少しいるみたいだけど」
 霊気を探り、人数を特定すると軽くため息をついた。
 「俺一人を相手に、特殊部隊を投入とは気前のいいことだ…」
 「グルルルル…」
 「左側の連中を頼む、俺は右から攻め込むからな」
 その声をきっかけにしたのか、バッと床を蹴ったドライガーの身体が膨れ
上がり、巨大な虎へと変化する。反対側へ動いたレイは、その爪をもってコンク
リートの壁を斬り裂いた。
 発砲にも大して気を止めずに走るレイに、弾道はかすりもしない。
 「遅い!」
 研ぎ澄まされた爪には、金属の輝きが宿る。金の属性を操る金術士である
レイの爪は、並みの刃物よりも硬く鋭利なものへと変化するからだ。
 その前には、防弾チョッキなどただの布にしか過ぎない。殺さないように
手加減をしつつ駆け抜けた後には三人の男が倒れ伏していた。
 「火薬の匂い…!ドライガー、上だ!!」
 「ガウッ!」
 天井をぶち抜いて外に飛び出すのと、ロケット砲が廃墟に撃ち込まれるのが
ほぼ同時。
 「なんつー物を持ってくるかな!?」
 ジープの上から別の砲門が自分を狙っていると意識したその時、横合いから
炎の矢が飛来して車体そのものを打ち抜いた。
 「随分と派手にやっているな、レイ」
 「おー、おいしいところもって行くのは昔通りで腹立たしいぞ、カイ」
 背後にドランザーを従え、両手に炎を溢れさせたカイの姿にレイは秘かに
安心する。これで、もう自分達に負けはない。
 「よう、猫野郎。久しぶりだな」
 「なんだ、居たのかボリえもん」
 「ボリえもん言うな!」
 カイの側へ着地すると、ボリスがケンカを売って来たので言い返す。
  ―ああ、懐かしい空気だ
 息を深く吸い込み、構えを取り直したところでカイが呟いた。
 「…どうやら、“あの男”は何が何でも俺達を消したいようだな」
 「そうだな。甘く見られてる気はするけど、そんな感じだ」
 「撒くぞ。いつまでも相手をしている気にはなれん」
 カイは両手から炎を吹き上げ、ボリスが風を操り、レイは拳を地面に叩き
つける。同時に生まれた衝撃波と砂煙で視界を塞ぎ、それに乗じて三人は
その場を離れた。

 「その様子だと、“あの人”にはもう会ったのか?」
 「ユーリを連れて追ってきたぜ。嫌味な野郎だ」
 「もっとも、その後でユーリは逃げたらしいがな」
 ウラジミール・ヴォルコフ、議会の特殊部隊を統べる男。そして、彼らの因縁
の相手。
 「…今度は、殺すことになるかも知れんな」
 「タカオの魂をこの地に縛ったからか?」
 「その借りも返さなくてはならんが、いい加減に因縁を終わらせる必要が
ありそうだ」
 カイの声は冷静で、そのことが余計に本気であることを示しているとレイと
ボリスに感じさせた。
 「止めやしねーよ、俺だって終わらせてぇ」
 「お前達が終わらせたいと言うのももっともだな、“あの人”は執拗で性質が
悪い」
 バギーの後部座席に陣取って、レイは夜明けの空を見上げる。
 「行こう、他の皆が待ってるぞ」
 「ああ」
 心は急いているのに、目指す場所は手が届かないほど遠くに感じられた。
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